2023.06.22

SNS世代の先頭グループが向き合い始めた高齢化。「シニアと暮らし」のトピックとは?

日本における重要課題の一つ「高齢化」。各報道メディアでは関連ニュースなどが日々伝えられていますが、SNSの暮らしのコミュニティにおいて「高齢者(※)の暮らし」にまつわるユーザー発信のコンテンツを目にすることは、これまでほとんどありませんでした。ところが、最近RoomClip内では「介護」や「老後」に関連する話題が日々増加しています。

本レポートは、暮らしのコミュニティ内で語られ始めた「シニアと暮らし」にフォーカスするものです。 今この話題を取り上げている生活者たちの属性や、話題にしているトピックについて、RoomClip内のデータと具体的な実例を交えて解説します。

※ 国連の世界保健機関(WHO)の定義にならい、本レポートでは65歳以上の生活者を高齢者またはシニアと指します。

1:高齢化社会の現状

まずは、我が国における高齢者の大枠の実態について、政府が公表している調査結果を元に確認していきます。

高齢世帯の増加と、伸び続ける寿命

内閣府が発表した「令和3年版高齢社会白書 3家族と世帯」によると、令和元年時点、国内の全世帯数5,178万5千世帯のうち、49.4%と約半分の世帯において65歳以上の者がいることがわかります。世帯構造としては「夫婦のみ」の世帯が最も多く3割以上を占め、単独世帯も合わせると6割を超える結果となっています。 さらに、高齢化が進む背景の一つとして挙げられる寿命の延伸についても、同じく内閣府の 「令和4年版高齢社会白書(全体版)2 健康・福祉」によると、男女問わず、平均寿命・健康寿命ともに年々伸びていることがわかります。

介護者の半数以上は「家族」

要介護(要支援者)認定数も増加しています。厚生労働省による「令和2年度 介護保険事業状況報告(年報)」では、令和3年は前年比で13万人増となっていることが報告されています。 では、実際に介護を行っているのは誰なのでしょう?少し前のデータになりますが、同じく厚生労働省が発表した「2019年 国民生活基礎調査の概況」によると、半数以上が同居している家族で、別居している家族も加えると、介護者の8割近くが何らかの親族であることがわかります。事業者が占めている割合は1割程度という結果です。一日における介護時間の割合も、要介護度数の上昇に比例して増加しており、要介護3の時点で半日以上介護に費やす介護者が3割以上にのぼることがわかります。

2:親の介護がスタート。「シニアと暮らし」を発信し始めた、SNS世代の先頭グループ

ここで、コミュニティ内で「シニアと暮らし」コンテンツを発信し始めているのが誰なのかについて解説します。
上図は、2000年代のSNS勃興時にコアユーザーだった世代(=SNS利用世代の先頭グループ)の、おおよその年齢推移とライフイベントを示した図です。
2000年代初頭、国内で最初のSNSブームとなったmixiのメインユーザーは、当時20代〜30代の1970年代(年配層)・80年代(若年層)生まれでした。そこから時を経てfacebook、Instagram、TikTokとSNSの流行が移り変わっていき、SNS利用世代の先頭グループは年齢を重ね、今では年配層が50代、若年層が40代となりました。今「シニアと暮らし」の発信をしているのは、子育てを終え50代に突入し、親の介護が始まった、年配層の生活者たちであると言えるでしょう。

3:RoomClipの投稿から見る「シニアと暮らし」

ここからは、RoomClipのデータや投稿実例と共に、暮らしのコミュニティにおける具体的な「シニアと暮らし」コンテンツを掘り下げ、足元でどんなことが話題になっているのかを解説します。

増加する「介護」への関心

まずは「介護」というキーワードにおけるコメント率と検索率を調査してみました。尚「コメント」とは、ユーザーが自身の投稿をアップする際に添えたコメントと、投稿に寄せられたフォロワーによるコメントの両方を含みます。

コメント率・検索率ともに上昇傾向なのがわかります。コメント率の推移からは「介護」というキーワードに関する話題が増えていること、検索率の推移からはこれらのトピックへの関心度が高まっていることが伺えます。

一方、いずれのキーワードにおいても、投稿率に関しては現時点で目立った動きは確認できませんでした。つまり、関連する投稿のボリュームはまだ小さい、という状況です。暮らしのコミュニティにおいて、今はまだ一部のイノベーターやアーリーアダプターによるコンテンツ発信をフォロワーが目撃している、という構図が浮かび上がってきます。

「介護」に取り組むユーザーの投稿実例

では、実際に今介護に関する投稿を行っているユーザーは、どういうことを伝えているのでしょう。
まずは、2022年9月にRoomClipで実施した「バリアフリーな暮らしの工夫」という投稿イベント(RoomClipが掲げたテーマに関する投稿を募る企画)に集まった写真の、付与されたタグを場所別に計測してみました。

すると、玄関の投稿がもっとも多く55.6%、次いで、バス・トイレが32.1%という結果でした。介護の場面において、立ったり座ったりの行動に補助が必要なことが多い場所と考えると、想定内の結果といえそうです。

さらに、集まった投稿に寄せられたコメントをテキストマイニングしてみると、場所以外では「引き戸」「手すり」「段差」「スロープ」や「バリアフリー」「diy」「リフォーム」というキーワードが頻出していることがわかります。

実際の投稿を見てみると、普段活用している介護サポートアイテムの紹介や、どういうシチュエーションでどんな設備を利用しているかなどの詳細が伝えられています。

Room No.1040154 : hiron
こちらはPanasonicのイスで、介護用品店でレンタルしている物です。 普段は畳んでコンパクトにしておける所が、玄関が広くない我が家にはありがたいです☆
デイサービスに行く時はここに座って靴を履き、お迎えが来るのを待っています(^^)
Room No.412753 : orange-toast
デイサービスに通う母には、自分の部屋から外に出る動線は絶対必要❗️ なので、玄関の階段部分を最初の予定の半分にして、このスロープをつけてもらいました。 くるっと右側から回れば、玄関の正面から階段で上がれます。
Room No.3595397 : hirorinrin
浴槽と風呂椅子の高さの差をできるだけ無くして、浴槽⇄洗い場の移動を楽にしました。

次に、RoomClip全体で「介護」というキーワードを含む、投稿数の多いタグに注目してみました。
すると「インテリアとの両立」という視点があることがわかりました。
暮らしのコミュニティにおいて「◯◯と暮らす」や「◯◯のいる(ある)暮らし」などの「暮らし系タグ」は、多くのユーザーが自らのライフスタイルを表現する手段の一つとして活用しています。中でも多くの人によってタグ付けされている「子どもと暮らす」や「猫(あるいは犬)のいる暮らし」などは「ハードルに対してポジティブに立ち向かう」という性質も含みます。「シニアと暮らし」はまだ数値的には目立っていないものの、本質としては同類のタグとして表現するユーザーが登場し始めているようです。

実際の投稿を見ても「オーダーメイド」「こだわり」「ホテルライク」といったキーワードがコメントに登場しており「暮らしの中の介護」に対して前向きに試行錯誤する様子が伺えます。

Room No.3219962 : yuri
車椅子で入れるように吊り引き戸になっていています。
トイレの中でも車椅子で動けるように通常の広さより広くしてあります。

立ち上がるための手すりもついています。
青色のアクセントクロスがお気に入りです♩
Room No.412753 : orange-toast
このトイレは1番のこだわり。 おばあちゃんのポータブルトイレを洗いやすいように、大型の病院用シンクで作ってもらった洗面台と、蓋が自動オープンするトイレはネオレスト😊 ネオレストは汚れも付きにくく、お掃除がとっても楽です👍 洗面台は足元をオープンにする事で、車椅子でも手が届きます😉 手摺はアイアンでオーダーして、介護用に見えない手摺が出来たので、満足しています✨
Room No.6180097 : michi
トイレ、洗面所、お風呂場、全てがオープンなホテルライクな造りにしてもらいました。要介護4ですが、仕事に行く間は、頑張ってデイサービスに行ってもらっています。朝の準備の時、お風呂の扉がガラスだと、長いトイレ中にずっと待ってる時間の余裕はないので、自分はお風呂で髪を洗いながら、お互いに顔が見えて安心感があります。

トイレを広くしたのは、お尻を拭いてあげるのに広いスペースがあるといいから。 
トイレの後ろにもクイックルワイパーが入るくらいの隙間を造り、掃除がしやすくしました。

介護が必要な家族がいる方は、ホテルライクな造りにしたほうが便利で、安心だと思います。

まだ見ぬ「老後への備え」も

「高齢者」や「介護」にまつわる投稿を調査していくと、介護目的ではなく、まだ見ぬ自身の「老後」について言及している投稿も見られました。

Room No.5483401 : nackey
スケルトンリノベした時に今後の生活を視野に入れてALLバリアフリーに🌟
Room No.5532705 : tamabaka1971
我が家は家づくりをするにあたって、歳をとってからも住みやすく、介護する側もされる側も心地よくをコンセプトにしました☺️ ですので、バリアフリーはいたるところにされてあります。 まずはトイレですね😄 0.75坪と広くとり、車椅子でも入れるようにしました。 また、入口を釣り引き戸にしているので段差がありません。 床はコルクタイルにしているので、クッション性もあり足触りが優しいです🙂 もちろん手すりも設置しています。
Room No.4198803 : KL
玄関から廊下へは段差僅か1cm。ほぼフラットなつくりとなっています。靴を履きやすいようにオットマンを置いてあるくらいで、スッキリ使えるようにしています。生活スタイルが変わって、いつか車椅子の生活になったとしても、段差なくドアサイズも余裕を持たせて、家中スムーズに動けるようになっています。

そこで「老後」を含むコメント率と検索率を見てみると、いずれも増加傾向にあることがわかり、注目が高まっているといえそうです。

「老後」を含むキーワードにおける、投稿数の多いタグはこちらです。

冒頭でも伝えた、我が国における健康寿命が年々伸びているという事実と照らし合わせてみると、リフォームや新築などの場面で自身の老後を考慮した家づくりを行っている生活者たちの姿が浮かび上がってきます。

「アクティブシニア」の暮らし

ここまで、現在介護に取り組んでいたり、将来の不自由を見据えて準備をしているユーザーたちの動向をご紹介してきました。前述した様に、健康寿命が伸びている我が国において今後ボリュームアップしていくであろうと予想されるのが、健康で元気な高齢者、すなわち「アクティブシニア」たちです。

増え続ける、60代以降の3次活動時間

まずは、高齢者の余暇時間の実態を把握するために、総務省が公開している「令和3年 社会生活基本調査 生活時間」を見てみましょう。
毎日の活動を1次(睡眠や食事などの生理的に必要な活動)・2次(仕事・家事・育児などの義務的な活動)・3次(余暇活動)の3種類に分け、年齢別の各活動に費やす時間を表したのが上のグラフです。
60代以降、1次活動と3次活動が増え、2次活動が著しく低下しているのがわかります。60代中頃の生活時間は10〜14歳の子供とほぼ同じで、60代後半以降は子供よりも余暇活動が増えていくことがわかります。

増加傾向にある、「孫」関連のタグ

シニアの余暇活動の内容を探る中で、「孫」との関わりがあるユーザーが多いのではと想像し、タグの付与率とコメント率を見てみました。

すると、いずれも上昇傾向でした。
実際の投稿を見てみると、孫のために季節の飾りつけやDIYでおもちゃを制作している様子などが伺えました。また、子どもが独立したことで余った寝室を、孫と一緒に里帰りしたとき用のゲストルームとしてリフォームする実例も見られました。

Room No.5373504 : love1017
今日はわが家のクリスマス会🎄 孫たちの誕生日会を兼ねて祝います😊 3時過ぎに来るから 朝から準備始めます💦 プレゼント喜んでくれるかな😆
Room No.496094 : Satomi
孫のために、おままごとDIYしました❤︎
Room No.893371 : Natashya
娘達の使っていた部屋を一つにしてゲストルームにリフォームしました。二部屋をぶち抜いたら 13畳の広々とした部屋になりました。娘達が帰って来たら ここでゆっくりしてもらえます。

子育てを終え、20代の「暮らし」が復活?

ここで、暮らしのコミュニティ内のアクティブシニアが、どんなことに関心を寄せているかの示唆を得られるデータをご紹介します。

上図は、RoomClipに登録されているユーザーのプロフィール情報を元に、年代別「暮らし系タグ」の付与数を、10位までのランキング形式で表したものです。 どの年代においても植物や花関連のタグが最も高い割合を占めていて、人気の高さを伺わせます。

植物や花関連のタグは除き、それら以外に注目してみましょう。

すると、30〜40代は子供や赤ちゃん関連のタグが多く、50代以上になると子供関連のタグは消え、ペット・アート・コーヒー関連のタグが上位に上がっていることがわかります。ちなみにこれらのタグは、50代以下の年代ではどれも10位以下です。
興味深いのは、「コーヒーのある暮らし」を除くと、50代以降の暮らし系タグは20代のそれとほぼ同じだということです。何か新しいことを始めるのではなく「これまで子育てなどで中断してきた、趣味や好きなことを再開する」ことが、充実したアクティブシニアの暮らしを送るためのカギなのかもしれません。

4:世帯構造変化で今後さらなる転換が予想される、暮らしのコミュニティの介護

投稿ボリュームは未知数ながら、暮らしのコミュニティにおける「高齢者」や「介護」に関連する注目度が高まっていること、そして、今後さらに増えるであろうアクティブシニア層の暮らしについて、RoomClipのユーザー行動や投稿実例から示唆を得ることができました。
改めて、SNSの暮らしのコミュニティにおいて「今起きていること」をまとめると、以下となります。

1)SNS利用世代の先頭グループのうち、年配世代(1970年代生まれ・50代)が、高齢者となった親の介護に関連する投稿を発信し始めている。

2)同年配世代のうち、孫を早くに持った人や、同年配世代の少し上の世代がアクティブシニアとしての暮らしぶりを発信している。

この後起きることを考えるために、ここで、もう一度SNS世代先頭グループのライフステージを確認してみます。
前述した様に、先頭グループはおおよそ1970年代生まれの年配層と、1980年代生まれの若年層に分かれます。順当にいけば、次に起こることは、現在子育て中の若年層による介護やアクティブシニアとしての発信でしょう。
この時、同じ先頭世代グループにいる年配層と若年層には、ある大きな違いがあることを知る必要があります。それは、年配層が主に「専業主婦世帯」であることに対し、若年層は主に「共働き世帯」によって成り立っているということです。 同じ先頭グループでも、若年層の多くは一日の2次活動(仕事・家事・育児)の大半が仕事に占められます。

上の図が示している様に、専業主婦世帯と比較して、共働き世帯の家事に費やせる時間は半分以下と言われています。
この背景の中、SNSで2015年頃から起きたのが「家事時短ブーム」でした。これまでの家事のやり方を抜本的に見直し、最新の家電(ロボット掃除機・食洗機・洗濯乾燥機)や新たな間取り(回遊導線・ランドリールーム)の導入を進め、家事全般の再構築が行われました。家事のやり方や価値観の変化については掃除のレポート洗濯のレポートでも伝えた通りです。
このブームを牽引したのが、まさに、2015年頃から子育てのライフステージに突入したSNS利用世代先頭グループの若年層なのです。加えて、健康寿命の延伸や年金受給年齢の引き上げなどの社会的状況も相まって、これまでの世代と比べてより長く働く世代でもあることが予想されます。そんな彼らが今後10年で直面するであろうライフステージが「介護」です。

これらのことを踏まえると、介護の場面においても10年後は「従来通りのやり方では立ち行かない」と頭を抱える人が今よりも増えることが予想されます。これまで家事や育児の場面で暮らしのペインを減らす工夫を重ねてきたこの世代が「シニアの暮らし」にどうアプローチしていき、どんな発信をしていくのか。注目していきたいと思います。

このレポートの調査メンバー

  • 主任研究員・調査
    水上 淳史
  • 研究員・文
    清水 麻未