1:多様化する「洗濯」に関する話題
今回、調査のスターティングポイントとなったのが上のデータです。
「洗濯」というキーワードを含むタグの種類が、2017年頃から急増していることがわかります。SNSにおけるタグのデータを調べる際、あるタグの投稿数が増えている時は「関連する話題が盛り上がっている」と捉えられ、また、タグの種類が増えている時は「関連する話題が複雑化している」と捉えることができます。つまり、この数年、RoomClip内において洗濯に関する話題の多様化が進んでいることをデータが示していることになります。
そこで、その実態を明かすべく「干す」「たたむ・しまう」という工程ごとに詳しく調査し、今起きている洗濯プロセスの変化をレポートします。
2:変化する「干す」工程。部屋干しは「一時的」から「常時」ルーティンへ
洗濯において、話題の中心の一つが「部屋干し」に関するトピックスです。
「部屋干し」の投稿水準を年推移で見てみると、2017年以降増加傾向にあることがわかります。
元来日本では庭やベランダなどの屋外で「外干し」することが一般的ですが、このデータを見ると、部屋干しへの関心が高まっているように思えます。
部屋干しする3大理由
ここで、部屋干しについて少し掘り下げてみます。
「部屋干し」というキーワードがコメントで言及されている投稿を分析してみると、その理由として、主に以下の3つの要因があるようです。
1. 季節性(雨・花粉/PM2.5・暑さ/寒さ など)の外的影響を受けたくない
2. 時間の制約を受けたくない
3. 時短・効率化をしたい
1の、季節性の外的要因により「一時的」に部屋干しをするニーズは旧来から存在していました。一方、2と3の理由に関しては「常時」室内干しをするニーズが見受けられます。この背景にあるのは、コメントでも言及されている「日中の仕事」や「共働き」などに起因する、昼間に洗濯できない事情です。共働き世帯が一般的となる中、このニーズは今後ますます大きくなるばかりか「時短」や「ズボラ」を目指す多くの生活者に取り入れられていくのは必然の流れに思えます。
充実を見せる部屋干しに関するツール
部屋干しの常時化が進んでいる別の要因として、関連するツールの充実とノウハウの広がりも挙げられます。
上の表は、部屋干しと併用されるモノ系タグの中から付与が多いものを「洗剤系」「物干し系」「家電系」の3系統に分けて表したもので、それぞれの系統における人気アイテムがわかります。
洗剤系で臭いを抑え、物干し系で部屋干しの場所を作り、家電系で乾かす。快適に部屋干しを実現するための最適解が確立されていることがうかがえます。なお、これらのアイテムが使われる場所としては洗面所とリビングが主です。
こちらに干す時は風通しが悪いので洗濯機や洗面台にサーキュレーターを置いてフル稼働させ乾きを早めています💡
乾燥系家電・設備の推進により、「干す量」は最小限に
現代のライフスタイルにおいて、毎日の洗濯物の干し方は部屋干しが好まれる傾向にあるということ、そしてその関連グッズも充実していることが分かりました。とはいえ、室内で干す場合、スペースが外干しほど確保できないのが現実です。結果として「干す量をなるべく抑えたい」というニーズが発生します。この時活躍するのが、乾燥系家電や設備です。
上のグラフは「ドラム式洗濯機」と「洗濯乾燥機」の投稿水準を年推移で表したものです。
いずれの投稿も顕著な増加傾向にあることが分かります。従来の縦型洗濯機と比べ大型でスペースをとり、かつ高価であるにも関わらずドラム式洗濯機が人気を誇る理由は、乾燥機能によって干す量の大幅な縮小が叶うからといえます。すべての洗濯物を乾燥機で乾かすことはできない場合が多いものの、乾かす作業を機械と分担することで干す作業は格段に省略され、ラクにできるのです。
こちらは洗濯10kg乾燥7kgの容量で、大概一度に済みます♪デリケートなものは洗濯終了時に取り出して部屋干し、残りは夜間電力で乾燥させてます。
「干す場所」は、洗濯機の近くへ
乾燥機器の活躍により干す量が少なくなった洗濯物。その洗濯物は、どこで干されているのでしょうか?
上の表は「部屋干し」というタグと併用される場所系タグの年別ランキングです。
RoomClipにおいてユーザーがどこで部屋干しをしているかを表していると捉えることができ、これまで部屋干しは主にリビングと洗面所でされていたことが伺えます。
ところが、2020年から順位が変動します。長年トップだった「リビング」が後退し、「ランドリールーム」と「洗面所・脱衣所・浴室」が上位にランクインしているのです。この変化は、干す場所を洗濯機の近くにしたいというニーズ、そして、コロナ禍によって家で過ごす時間が増え、洗濯ものが干されたリビングで過ごしたくないという新たな心理的ニーズの現れだと見ています。部屋干しの様子は「見せたくないもの」として以前より言及がされていましたが、干す洗濯物の量が減った今「どうにかしてリビングから移動させたい」と願う人々の試行錯誤が見てとれます。
「外干しやめた派」の出現と、「ピンポイント外干し」のニーズ
ここまで、部屋干しの増加について触れてきましたが、それでは従来の当たり前であった「外干し」はどのような変化を見せているのでしょうか?
「外干し」の投稿水準を年ごとに比べてみると、コロナ禍を境にわずかながら減少傾向に転じていることが分かります。実際RoomClip内では「外干しをやめた」と発言するユーザーは少なくありません。とはいえ、室内で干しきれない量が出る場合などには、一時的な手段として外で干されているようで、部屋干しで仕切れない量がでた場合などの「ピンポイント外干し」の投稿もみられました。
省略される「たたむ・しまう」作業
干された洗濯物が乾くと、次は「たたんで、しまう」作業が発生します。
そこで、効率的なしまい方として近年注目される「かける収納」について調べてみました。
すると、やはり2017年以降、投稿水準・検索水準ともに増加傾向にあることが分かりました。具体的な投稿を見てみると、コートやシャツだけでなく、ニットやパンツなど、これまであまりハンガーがけされていなかったものもかける収納でしまわれている様子がうかがえます。
この収納方法のさらなる活用方法が、部屋干しで乾いた衣類をハンガーにかけたまま収納することです。洗濯における「たたむ・しまう」プロセスの省略を実現しているというわけです。
「たたむ・しまう」プロセスの省略化としては、かける収納の他に、タオルや下着など一部のものを投げ込み式で収納する様子も見かけるようになりました。洗濯という一連の作業におけるすべての工程で、効率化させるニーズが高まっていることが分かります。
子ども服は、畳みません。笑
干して乾いたら、手前に移動するだけです。
効率的に洗濯プロセスが最適化される住まいと、新しい暮らしの景色
洗濯は、洗う・干す・たたむ・しまう、と工程が多く、さらに、洗面所・脱衣所(洗う)→ベランダ・庭(干す)→リビング(たたむ)→クローゼット(しまう)という流れに合わせて工程間の移動も多いという特徴があります。これを毎日繰り返すので、それだけペインが大きく「なんとかしたい」という思いが多くの生活者にとって切実であることは、容易く想像されます。
集約化・省略化することで洗濯プロセスが再構築されている今、住まいには新たな暮らしの景色が生まれつつあります。2つ、ご紹介します。
注目される、ランドリールーム
一つ目が、洗濯の全行程を一つの部屋に集約することで導線の最小化を叶える「ランドリールーム」の出現です。英米の住宅では以前より一般的な設備ですが、近年は日本でも注目度が高まっています。
RoomClip内のデータを見ても「ランドリールーム」の投稿水準は2017年比で3.3倍、検索水準にいたっては4.5倍も上昇しています。新築やリノベーションなどによる住宅取得層にとって、ランドリールームは定番の間取りになってくることが予想されます。
「空いた」ベランダのリビングルーム化
もう一つが「ベランダのリビングルーム化」です。部屋干しの常時化によって、これまで洗濯干し場として使われてきたベランダに空いたスペースが生まれ、新たに憩いの場所として生まれ変わっているのです。
以前RoomClipがユーザー向けに行った調査では「コロナがきっかけで新設/改善した空間」として「おうちの外で過ごすためのスペース」が2位にランクインしました。ベランダなどの屋外空間を憩いの場所にすることへのニーズ自体が高まっており、この事が洗濯プロセスの再構築化を後押ししているという見方もできるかもしれません。
その年の住まいと暮らしのトレンドキーワードを選出する「RoomClip Award」でも、2021年は「ベランダのリビング化」がランクインしました。コロナ禍を経て、RoomClipには多様なアクティビティを楽しむ様子がベランダで投稿されています。ところが、そのシーンの中で洗濯物や物干し竿は確認できません。
洗濯プロセスが集約されたランドリールームと、暮らしの様々なシーンで活用されるベランダ。現代のライフスタイルと住まいの新たな調和が見出され、共感とともに広がっていく様子が暮らしのコミュニティ内で見られます。
共働き世帯の増加やコロナ禍などによる社会的環境の変化、そしてSNSの普及により多くの家庭で家事の再構築が起きています。その中でもとりわけ顕著に変化しているのが洗濯プロセスだと言えます。炊事や掃除と比較するとやることや目指したい形に個人差が発生しづらく、共有されるノウハウを取り入れやすいという点が、その理由の一つとして挙げられるでしょう。今後は、マンションや建売住宅などの間取りや設備でも、今回取り上げた洗濯プロセスのニーズが反映されていくことが予想されます。