2022.06.22

RoomClipの10年・500万枚以上の投稿実例から発見。生活者が辿った住生活5トレンド

住まいと暮らしのソーシャルメディアとしてスタートしたRoomClipは、今年、サービス開始10周年を迎えました。これまでにユーザーコミュニティの中では様々なトレンドが発生し、集まった投稿は500万枚以上にも上ります。これは、言うまでもなく膨大な量の「生活者の実例」です。

10年間のユーザーの投稿写真や行動データを振り返ると、SNSにおける「映え」の価値観が発展・定着しながら多様化していく様子が捉えられました。大きく分類すると、日本の住生活は5つのトレンド変遷をたどってきたといえます。また、その一つ一つをつぶさに見つめると、暮らしのニーズや課題がトレンドと共にどのように変化し、生活者がどのように試行錯誤をしてきたかも見えます。今回は、それらの内容をレポートします。

▲RoomClipに投稿された最初の1枚は、開発者が投稿したキッチンの写真でした

1:SNS「映え」の時代からコロナ禍まで。多様化する社会の中で生まれた5つのトレンド

この10年、暮らしのコミュニティ文脈において住生活では5つのトレンド変遷が起きました。2013年頃から発生したスタイル系トレンドにはじまり、2014年頃発生した収納系トレンド、2015年頃の暮らし系トレンドと家事系トレンド、そして2020年4月以降急成長したおうち系トレンドについて詳しく解説していきます。

1. スタイル系トレンド

まず最初に発生したのが、2013年頃に生まれた、積極的に「映え」を追求する「◯◯スタイル(以下スタイル)」系トレンドです。RoomClipでも、無骨な素材感や色合いで構成する「男前インテリア」や海外ビーチの開放感をイメージする「西海岸インテリア」など、このトレンドを牽引する多くのインテリアスタイルが誕生しました。

上のグラフは、スタイル系のタグの中で投稿枚数が多いトップ50が500枚に到達した時期をカウントしたものです。2013年から2015年をピークに、2017年頃までにその大半が発生していることがわかります。 2017年以降になると、トップ50に含まれるボリュームの大きなインテリアスタイルはあまり発生していません。唯一目立ったスタイルとして、2020年頃に「韓国インテリア」が発生しています。

RoomClipをはじめとするSNS黎明期といえる2012年頃、住まいと暮らしのコミュニティではわかりやすい見た目のこだわりを発信することがトレンドでした。リビングやキッチンなどの主要な部屋だけでなく、寝室や玄関、トイレなど、住まいのあらゆる部屋の投稿にスタイル名のタグが付与されていました。インテリアに馴染まないものは、リメイクやDIYなどで隠す、改造するノウハウもこの時期多数話題となりました。

新しいインテリアスタイルの発生が見られない近年ですが、比較的若い一人暮らし層で「塩系インテリア」がリバイバルするなど、ファッションのように過去のトレンドが再熱する動きが見られます。

▲左から:「カフェ風」「北欧」「モノトーン」のスタイル系インテリアのユーザー投稿実例

2. 収納系トレンド

その後、スタイル系の盛り上がりを追うように2014年頃発生したのが「収納」系トレンドです。
ピークは2017年ですが、何か新しいトレンドが発生するたびに、その下支えとなる「舞台裏」的な立場で収納にまつわる様々なキーワードが継続的に発生しました。

例えば、「見せる収納」は2014年に誕生しましたが、これは見せ方や見た目が重要だったスタイル系トレンドにおいて常に人気のトピックでした。その世界観は押入れの中、シンク下の収納の中、冷蔵庫の中など一般的には「見えない/見せない場所」にも適用され、人目に触れない場所も他者の視線を意識したかのように整えられました。後述する「暮らし系」トレンドが発生する2015年頃には「丁寧な暮らし」を心がける層に人気な「かご収納」や「子どもとの暮らし」に必要不可欠な「おもちゃ収納」が、家事系トレンドが発生する2016年頃には家事や掃除をより効率的に行うために役立つ「吊り下げ収納」「調味料収納」や「ランドリー収納」などが支持を集めたキーワードとして登場しています。

▲左から:「見せる収納」「おもちゃ収納」「吊り下げ収納」のユーザー投稿実例

3. 暮らし系トレンド

2015年頃から発生したのが、「◯◯な暮らし(以下暮らし)」系のトレンドです。
暮らし系トレンドでは、生活者にとって「身近で、些細だけど愛おしい事柄」を優先して住まいを整えることが特徴として挙げられます。 2016年以降になると、その「愛おしい事柄」の対象はモノや人を超えて、「すっきりと暮らす」「丁寧なくらし」など、家事の行き届いた暮らしのあり様にまで及ぶようになりました。SNSでシェアするコンテンツのフォーカスが「映え」時代で重要視された「視覚」から、「五感・体験」へと移り変わっていく様子が伺えます。 「花のある暮らし」「グリーンのある暮らし」「植物のある暮らし」など、植物を取り入れた暮らしや「こどもとの暮らし」がトレンド初期に登場し、その後多様なキーワードが多くのユーザーによって投稿されていきました。

暮らし系トレンドでは、生活者それぞれが大切にするものを中心に、タグとして併用される多様な関連ワードが存在することも特徴です。例えば「植物との暮らし」トレンドでは、ドライフラワーやハーバリウム、寄せ植え、多肉植物といったものから、薔薇やミモザなどの特定の植物にフォーカスしたものに至るまで、キーワードは広がりを見せました。「こどもと暮らす」や「赤ちゃんと暮らす」などのトレンドでは、ベビー用品やおもちゃ、ランドセルや学校で配布されるプリントなど、子育て世帯特有の収納に関する悩みを解決するノウハウが誕生しました。「ペットとの暮らし」トレンドでは、既存の製品がインテリアに馴染むものが少ないというユーザーの悩みに起因したペット用品のリメイクDIYや、隠すノウハウに加え、壁一面のキャットウォーク、庭の大半を占めるドッグランなど大規模な事例が見られるようになりました。また、猫、犬を初め、インコ、うさぎ、ハムスターなど、飼育する動物の種類も多様化が進んでいます。

▲左から:「花のある暮らし」「こどもと暮らす。」「ねこと暮らす。」のユーザー投稿実例

4. 家事系トレンド

暮らし系トレンドと同時期に発生したのが「家事」系トレンドです。
家事系トレンドでは、主に「掃除」「洗濯」「料理」のより効率的なこなし方や、便利な設備・道具に関連するトピックが集まりました。

トレンド初期のキーワードは「大掃除」や「掃除」など家事そのものの名称を指すようなものが主で、種類も数えるほどしかありませんでした。ところが、2017年以降になると徐々にバリエーションが増え始め、「ランドリールーム」「ルンバ(ロボット掃除機ブランド)」「食洗機」など、家事の悩みを解決する特定のノウハウやアイテムのキーワードが多く登場しています。。

共働き世帯の増加や、2017年の流行語大賞に「ワンオペ育児」がノミネートされるなど、社会的にも家事負担にフォーカスが集まったのがこの頃です。日々の負担を少しでも解消していこうと取り組みを進める生活者の行動が、家事系トレンドの推移から浮き彫りになります。

また、最近はこれまでの家事の概念にとらわれない「予防掃除」といったキーワードも注目されています。予防掃除では、汚れやすい場所や掃除が難しい場所にあらかじめマスキングやコーティングを施すなど、掃除をする回数を減らし、楽にするためのノウハウが多く共有されました。他にも掃除に関しては、窓拭きなど大掃除でやっていたような場所の掃除をあえて日常的にやることで労力を分散させるなど、さまざまなルーチンの見直しが進みました。結果、包括的なキーワードとして「小掃除」が2019年を代表するトレンドキーワードに選出されています(RoomClip Award 2019)

▲左から:「予防掃除」「ランドリールーム」「食洗機」のユーザー投稿実例

5. おうち系トレンド

2020年4月以降、コロナ禍をきっかけに発生したと言えるのが、「おうち〇〇(以下おうち)」系トレンドです。
おうち系トレンドは、これまで家の外で行われた活動の数々がステイホームによって制限される中、多くの人がそれらを家の中で再現しようと試みたことに端を発します。再現される事柄に合わせて主に「おうち〇〇」といったキーワードで表現されることが特徴です。

コロナ以前には「おうちごはん」や「おうちcafe」しか存在しなかったおうち系キーワードが2020年6月以降、集中的に激増しました。「おうち時間」「おうちアウトドア」「在宅ワーク(テレワーク)」「宅トレ」などの投稿が特に顕著です。 「おうちアウトドア」では、テラスや庭、あるいはリビングなどにキャンプ道具を広げ、食事をしたりコーヒーを飲んでくつろぐといった「家ナカエンターテインメント」が見出されました。これは「外に出られない子どものストレスをなんとかして解消してあげたい」と願う、子育て世帯の間で特に人気のアクティビティとなりました。「在宅ワーク」に関しては、「働く」と「暮らす」を一つの家の中で両立させるための様々な試行錯誤が多くの家庭で行われました。コロナ前は住まいのワークスペースというと個室が大半でしたが、現在ではLDKの一角にスペースを設けるケースも多く見られます。「宅トレ」では、ヨガマットやバランスボール、ダンベルなどをリビングのテレビの前に設置して、動画を見ながらトレーニングしている様子が見られました。
ちなみに2013年に発生している「おうちカフェ」は、2000年代のカフェブーム世代が家庭に入ったことで生まれたトレンドです。他のおうち系トレンドとは少し違う背景があるため、コロナ禍以前に発生しています。

▲左から:「おうちアウトドア」「在宅ワーク」「宅トレ」のユーザー投稿実例

2:プラス・マイナスを行き来しながら「視覚」から「体験」志向に移り変わった住まいのニーズ

最後に、今回紹介した5つのトレンド変遷を俯瞰した2つの図を紹介します。

1つ目の図は、5つのトレンドを5色に分け、まとめたものです。SNS普及の全盛期にかける「映え」潮流と連動してスタイル系トレンドが2013年頃から発生し、その後、スタイルの実現や暮らしの維持を支えるノウハウである収納を下支えとして、暮らし系トレンド、家事系トレンド、おうち系トレンドが誕生していったことがわかります。

2つ目の図は、各トレンドの特徴を示したイメージ図です。横軸はトレンドが「視覚的・静的」か、あるいは「体験的・動的」かを示し、縦軸はトレンドの目的が暮らしの「よろこび」を増幅するためなのか「つらみ」を軽減するためのものなのかを示します。これは、そのトレンドが住まいと暮らしに「プラスの要素を与える(付加的)もの」あるいは「マイナスの要素をゼロに戻す(基礎的)もの」かを表しているとも整理できます。 (「つらみ」の語感に違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、あえてSNS世代に多用される特徴的なキーワード「つらみ」を従来的な表現にかえて使用しています。暮らしの営みの中にある困難や苦痛に対し「つらい」「きつい」という感情が高い状態を指します)

これらの要素に応じて5トレンドを置くと、発生の時系列として左から右へスタイル系→収納系→暮らし系→家事系→おうち系の順に、付加的なトレンド、基礎的なトレンドを行ったり来たりする配置となります。言い換えれば、住生活のトレンドは「よろこびの増幅」と「つらみの軽減」を繰り返しながら、「視覚的」なものから「体験的」なものへニーズが移り変わっていったと捉えられます。

今回、膨大なデータを分類・分布してわかったのは、コロナ禍などの大きな社会現象も体験しながら、この10年間の暮らしのコミュニティの価値観が変化したことでした。 RoomClipでは日々、創意工夫をしながらポジティブに暮らす生活者のリアルな声が多く共有されています。ライフステージやライフスタイルの変化に合わせて、人々の暮らしや住まいは変化します。入学や卒業、就職や転職、同棲や結婚、出産や子育てなど、個人個人がそれぞれの人生のステージで役に立った設備やモノ、ノウハウといった知恵が投稿されると、同じ状況に直面した別の人がそれを同期的・非同期的にキャッチし、自分なりの新しい方法を上乗せします。この10年とは、その行為の繰り返しによって、より深く、より広く蓄積された生活者の知恵とその発展の軌跡なのだと感じます。

今後も日本の住生活はさらなる世帯構造の変化や、SDGsなどの社会的な要請から生活者起点の新たな掛け算が生まれていくことが予想されます。RoomClip住文化研究所は、これからも住まいと暮らしのトレンドを注視して参ります。

このレポートの調査メンバー

  • 主任研究員
    水上 淳史
  • 研究員
    竹内 優