2023.04.06

普及が遅い?どう広がっていく?2023 日本のスマートホーム事情

スマート家電・スマートホームという言葉が一般の生活者にまで届くようになってはや10年以上経ちますが、これまで日本は普及が遅いと指摘される立場にありました。しかし、経済情勢の変化や人口減少による共働き家庭や高齢世帯のさらなる増加が予測される中で、スマート家電・スマートホームの技術分野を指す「リビングテック」の活用は期待が高まり続けています。暮らしの豊かさが増すのはもちろんのこと、家庭における家事従事者のサポートや一部の代替などが可能と考えられていることなどがその背景にあります。

RoomClipは、「人々の暮らしを、テクノロジーで豊かにする。」をミッションに業界を横断して日本におけるスマートホーム関連企業の連携や普及に取り組む、リビングテック協会のメディアパートナーとして参画しています。今回は、リビングテック協会・RoomClip・そして同じくメディアパートナーでありグローバル統計データプラットフォームを提供するスタティスタ・ジャパンの3社が協力し、各社が行った調査やデータを活かしたレポートをお届けします。スマート家電・スマートホームに関する海外との比較を踏まえた普及状況や生活者の意識、投稿事例などとともに、今後の日本でさらなる普及につなげるための課題やヒントを見出すものです。

※本レポートで使用するデータは、主に下記の調査およびデータに基づきます。
- 日本(一般):「住まいに関する調査」(2023年 リビングテック協会 ネットリサーチ)
- RoomClip:「スマート家電に関するアンケート」(2023年 ルームクリップ株式会社 RoomClipユーザーアンケート)
- アメリカ・中国・ノルウェー:Consumer Insights(2022年 Statista)

その差は5倍以上。日本と海外の普及ギャップ

まずは世間で一般論のように語られる日本での普及の遅れについて、実際に世界で普及が進んでいる国とのギャップを比較してみましょう。

スマート家電・スマートホーム関連アイテムの所有について尋ねたStatista社の各国の調査を参照すると、例えばアメリカ・中国が世界でも代表的で、スマート家電・スマートホーム機器を1台でも所有する人の割合は80%を超えます。また欧州でもっとも普及率の高い国はノルウェーで、66%です。
対して日本も全国一般を対象に同様の設問で調査を行った結果、結果は13%となりました。ノルウェーと比較しても、その差は5倍超の開きがあります。総務省の情報通信白書(令和4年版)においてもスマート家電の所有率は9.3%と報告されており、いずれの数値を参照しても、日本は他国に比べ普及が待たれていることがわかります。

スマートホームに経済メリットを感じる?所有率だけではない、日本と海外のギャップ

また、その他の数値にも目を向けると、さらに興味深いことがわかります。スマートホームに関する印象を尋ねた設問で、日本人に共感されやすい事柄と海外で共感されやすい事柄にもギャップがありました。

まず日本においてスマートホームに関する印象TOP3には「コストが高い」「ネット接続による利便性」「遠隔操作の利便性」が挙げられました。海外のアメリカ・中国・ノルウェーでこれらに関する共感はまちまちで、一致しません。さらに注目したいのは、日本で下位となった項目で海外3国では何倍も高い数値を示したものがあることです。スマートホームは「セキュリティを高める」「経済メリットがある」「環境にやさしい」といった項目です。

振り返れば、日本のメディアにおけるスマートホームの描かれ方は生活をより豊かにするといった便利訴求がメインであった印象です。そのため回答の上位に利便性に関する項目が上がっていることも納得できます。しかし、結果としてスマートホームは生活必需品という側面より付加価値品、極端に言えば贅沢品といった認知が強まり、よりコストがかかるものとして捉えられているのかもしれません。

対して海外はスマートホームに対して経済的メリットも想起される割合が日本の3倍超のボリュームで存在します。それを超える倍率で「セキュリティー」「環境」といったキーワードに共感する割合も日本に比して高いことを踏まえると、例えば「防犯」といった各国の住生活ならではの事情で必要とされる課題解決について、既存のサービスを利用するよりもテクノロジーを活用する方がコストパフォーマンスが良いとも捉えられる示唆を得ます。

仕事や住まい形態の違いが障害という意見もある中、接近が進む日本と海外の状況

日本でスマートホームの普及が進まないのは「海外と比べて専業主婦世帯が多く、暮らしに手間をかけられるから」「賃貸が多く、スマート化しづらいから」といった意見が上がることもあります。しかしながら調査にあたってみると、普及が進んでいる海外と比べて統計的に大きなギャップは見られません。

日本で何かしらの仕事に就いている女性の就業率はアメリカやノルウェーとほぼ同程度の水準です。また、持ち家比率はアメリカを上回っていることがわかります。上記に挙げられる意見が、普及が進まない決定的な理由とは必ずしも断言できないようです。

スマート家電所有率が約半数。日本の今後の普及を探る事例としてのRoomClip

ここまでは海外と比較した普及状況やその周辺をお伝えしました。では、日本における今後のスマート家電・スマートホーム普及のために、得られるヒントはあるでしょうか?そのケーススタディとして取り上げたいのがRoomClipのコミュニティです。

RoomClipは住まいと暮らしの写真共有SNSを中心とした日本発のソーシャルプラットフォームですが、今回RoomClipユーザーを対象に、スマート家電・スマートホームに対する同様の調査を行ったところ、日本の全国一般の所有率13%に対してRoomClipは所有率48%という結果が得られました。その所有率は日本の約4倍、全体の約半数に届くレベルです。日本の一般世帯で普及が伸び悩む中、なぜRoomClipで普及が先行したのでしょうか?

「スマート家電は難しい」と感じつつも普及が先行

このような取り上げ方を行うと、RoomClip自体が比較的ITリテラシーが高く、軽々と導入できるユーザーが集まっているからだと思われるケースもあります。しかしながらユーザー属性や調査結果を参照すると、どうやらそうでもないことが興味深い点です。

まず、今回の回答者のジェンダーについて。ジェンダーで抽出した場合、ITの話題において、IT業界従事者の割合などからも比較的男性が興味・関心が高いとされがちです。しかしながら本調査において、RoomClipでは回答者の90%近くが女性でした。 また、調査で「スマートホームに関する印象」の設問において「スマート家電は設定が複雑」と回答した割合は日本の一般よりRoomClipの方が大きく上回る結果となっています。従って、決してITに対して自信が強いわけでないユーザー層のコミュニティで、普及が先行しているのです。

家事サポートや快適化につながるスマート家電の導入が先行

RoomClipでは実際にどのようなスマート家電が利用されているか、機器のカテゴリ別で回答を集計しました。

すると、所有率の高いスマート家電はロボット掃除機やネットワーク対応の冷蔵庫・電子レンジのようなキッチン家電をはじめとする生活家電カテゴリが1位で、このカテゴリのスマート家電を1台以上持つRoomClipユーザーは27%超にのぼります。これは当カテゴリにおけるアメリカの所有率を超える割合です。対してエンターテインメント系やセキュリティー系のスマート家電に関するRoomClipユーザーの所有率はアメリカより大きく下回るなど、ひとくちに所有率が高いと言っても、所有されるスマート家電のカテゴリは海外と一致せずコミュニティ毎に独特の様子となることがわかります。

Room No.5884211 : nastuko2200
机に椅子のアームを引っ掛けてルンバさんに掃除してもらってます。
Room No.2259573 : yocchan
花粉のこの時期は、
毎日この子に頼りっきり(*´꒳`*)

いろんな機能が付いた、かしこい洗濯機♪
スマホからも操作可能で、 外出中でも洗濯機の状態確認出来たり。
Room No.1439173 : naa
冷蔵庫の前を通るとおはようございますやおやすみなさい、旬の野菜を使ってこんな料理はどうですか?とメニューを考案してくれたりたくさんおしゃべりしてくれます😁

購入のきっかけとなるのは「自分軸」。情報のタッチポイントとして鍵となるSNS

視点を変えて、スマート家電の所有率が高いコミュニティでは、何がそのきっかけとなるのでしょうか。

RoomClipユーザーに所有のきっかけを聞き取ると、1位から順に「自分で調べた(21.5%)※Web検索などが該当」「家電の買い替え(21.1%)」「SNS(17.0%)」といった回答が得られました。いわゆるマスメディア情報である「テレビ・雑誌・Webマガジンなどのメディア(8.0%)」より2倍以上の割合で、ユーザー発信が中心のSNSを通じてスマート家電に興味を持ったことがわかります。日頃、ユーザーが趣味や属性の近いユーザーをフォローし情報を交換し合う中で、いかにスマート家電の情報が含まれるかが潜在ニーズを育てる要因となることが示唆されます。

直近著しい伸びを見せた「スマートロック」は、当事者間で共感されるエピソード投稿が普及に貢献

スマート家電購入のきっかけとして、SNSで得た情報が高い割合で影響を与えることがわかりましたが、具体的にはどのような種類の情報が有効に働くのでしょうか。

今回は代表的な「スマート家電」分類の中から、直近1年の投稿水準の伸長率が最も高かった(2.2倍)「スマートロック」を取り上げ、関連する投稿の変化を観察したいと思います。

RoomClipおよびリビングテック協会の共催で、2020年および2022年にRoomClipのサービス内において開催した「わが家の“スマート◯◯”」という、スマート家電を対象にした投稿イベントから「スマートロック」の事例を参照します。すると、以下に代表されるように、投稿されたシーンの傾向変化が見て取れました。左の写真は2020年のものです。あくまでプロダクトを中心に写し、紹介するための投稿が中心でした。しかし、2022年は右の写真のように、例えば子どもを抱っこしながら楽に開け閉めできるのがスマートロックの魅力といったことを伝えています。このように、当事者間で共感を生むようなエピソードを具体的に描く例が増加しているのです。

Room No.5402001 : usamegu
リノベした自宅玄関を
スマートロック🔑にました🙌
便利過ぎて
使わないなんてもったいない😍
Room No.2741548 : kazumi_innb
スマートキーがないとやってられない、リアルな場面。

こんな状態の時に、「鍵、どこ?」とかバッグの中ゴソゴソできないし、なんなら鍵回すことすら無理…って日々です。(どんだけ余裕ないのか😅)

それが、スマートキーを使うようになってから、子連れの外出のハードルが下がりました。リアルに。

まずはミクロな視点で個別の写真を取り上げて変化をご紹介しましたが、エピソードが描かれるケースが増している動きは、関連するコメント群を参照するとマクロな視点でもその現象が見られます。

RoomClipのサービス開始から2020年までと、2021年以降の「スマートロック」「スマートキー」の単語を含むRoomClip内のコメントをテキストマイニングで分析しました。すると、後者では併用されるキーワードとして「スマホ」「解錠」、「鍵」「探す」、「夫」「帰宅」、「荷物」「持つ」といった言葉の組み合わせが新たな共起キーワードのネットワークとして生まれていることがわかりました。その場で実物の鍵をパッと取り出さなくても鍵の開閉ができるといった、スマートロックのエピソードで使われがちなキーワードの頻出度がRoomClipのコミュニティ全体で実際に高まっているということです。

主にプロダクト中心の投稿が集まるトレンド初期から、フォロー・フォロワー間で共感を持って語り継がれるような、体験エピソードの写真やコメントが充実する時期に移っていくことは、プロダクト自体の普及へとシフトを促す要素になり得ると考えられます。

Room No.5696483 : echa
我が家のスマートキー🗝
車と同じシステム!!
買い物帰り両手塞がってても鍵が開くの 本当に便利。けちらなくてよかった
Room No.1610271 : ya_ma_house
玄関のスマートキー🚪🔑
このキーリモコン持ってるだけで
ドアについてるボタン押せばOPEN!!
ワンタッチスタイルです。

🔑を取り出さなくていいから
スマートに😆
ただいま~✨いってきま~す✨が出来ます🤗
Room No.5747424 : aurea
我が家はキーレス生活です。
アップルウォッチをワンタップで開けられるので、バッグを探って鍵を見つける手間がなくなりました。

アレクサとも連携させたので、料理中など、手が離せない時に夫が帰宅しても、これならスムーズです。

海外やRoomClipの状況から得られた、日本におけるスマートホーム普及の今後とは

今回の調査や、これまでのRoomClipでの行動データから得られた結果として、今後日本においてスマート家電・スマートホームの普及を加速させるためのいくつかの示唆が得られたと考えられます。

1. 付加価値品から課題解決手段としての認知が求められるスマート家電

これまで日本では、従来の家電等と比較してより良い体験が得られる、あくまで利便性を高められる存在としてのスマート家電・スマートホーム製品の訴求が主流でした。しかし海外のように、暮らしで起こり得るマイナスを補う存在のような、生活の必需品としてスマート家電が認知されるようになれば「付加価値=贅沢」として受け入れられてしまうこともある存在から、暮らしの「課題解決手段」となる生活必需品として活用されるシーンがさらに拡大します。潜在的なニーズが広がることで、ユーザー層もより多様化しながら増加していくと考えられます。

2. SNS等によるパーソナルな情報発信の充実

1.の認知のシフトを実現するために有効性が高いと考えられるのが、具体的でパーソナルな課題解決エピソードの充実です。一般的にスマート家電といえば、日本では新しいテクノロジーへの興味関心とリテラシーを持つデジモノ・ガジェット系のイノベーターがいち早く取り入れる傾向にあります。

しかし、いま普及が期待されるより多くの生活者(マジョリティ)に届くには、家事の時短化や整理収納などのような「暮らしの課題解決」に積極的に取り組むイノベーター側によるスマート家電・スマートホーム活用の声がまだまだ不足していると考えます。 モノをただ魅力的に見せる描写でなく、当事者目線で話せる様々な背景を持つユーザーが、スマート家電の利用によって具体的にどう自分や家族の暮らしに良い影響を与えているのか。

子育てや介護、ペットの飼育者など、共通の課題を持ちやすい家族構成同士などは特に顕著にエピソードによる共有効果が出ると想像できます。SNS等を中心に、一人一人にエピソードを積極的に発話してもらうきっかけづくりは、今後ますます工夫や機会が求められていくことでしょう。

3. タイムリーなユースケースの提供:例えば、「節電」

例えば、喫緊でスマート家電が果たせる可能性がある日本の住生活の課題において、電気代高騰への対策が挙げられます。RoomClip住文化研究所が2022年2月にリリースしたレポートでも報告したとおり、家計へのインパクトに目下で直面している状況で、小まめな電源オフや使用時間の削減などの行動がコミュニティ内で見られました。スマート家電を含む家電をコンセントから自分の手でできるだけ外す様子すら見られています。

しかし海外では、本レポートで引用した通り「スマートホームに関する印象」において「環境にやさしい住まいにできる」=エネルギーマネジメントに有効性があるという回答が3国平均で日本に比して5倍超と高く、スマート家電・スマートホーム機器の利用が逆に節電になるといった一定の認知があります。そのようなユースケースが日本向けにローカライズされ、当事者から発信されることで、スマート家電はたった今も新しい文脈で届けられると考えられるわけです。

日本の暮らしの現状を丁寧に観察し、n=1で見つかる課題や解決エピソードの発信をタイムリーに行う。住まいと暮らしのソーシャルプラットフォームを提供するRoomClipとしては、それらの支援や認知拡大の役割を改めて実感します。

Room No.3164457 : Jiji
我が家のライト
消し忘れることも多く、昼間に出掛けて帰ってきたら、「昨夜からずっと点けっぱなしだった!」なんてことも…😅

SwitchBotアプリでタイマー設定ができるので、点け忘れ、消し忘れがなく◎
Room No.5335615 : ToReTaRi
わが家初のスマート家電です🙌🙌🙌

AIを搭載した赤外線センサーが
エアコンの設置されている壁や窓まで
ぐるりと360°センシングするので
リモコンの『AI自動』ボタン1つで
お部屋を快適にしてくれます🙌🙌🙌
(使ってないのでまだ実感してませんが🤣)

なのでAIに任せておけば
省エネで節電バッチリ👍……なハズ🤣
この夏の活躍を期待しています😆🎶

4. 普及の加速に備え、住まいの設計レベルでスマート化を取り込む

最後に、今後事業者側の取り組みとして待たれるのはスマートホーム化に適した住まい設計のプロセスに日本の現状に合わせて取り込むことです。基本的に新築やリフォームを除いて、最初からスマートホーム環境がある例は稀で、ここまで投稿事例でもご覧いただいた通り、後付けが前提です。スマートホーム化のための各機器にネットワークと給電環境は不可欠ですが、室内すみずみまで届くWi-Fiのレイアウトや機器の多様性に合ったコンセントの位置・数が考慮されておらず、家電メーカー側の工夫やDIYなどで生活者側にケアされています。スマート照明ひとつ取っても、電球交換型、テープライト型など照明器具の選定や、スイッチのスマート化、照明のレイアウトなど考慮すべきことは多くありますが、後付けではインテリアとしての美観はもちろん、安全性・保守性にも影響を与えます。

今後スマート化によって暮らしの課題解決に臨むユーザーの多様化と増加を受け入れるには、スマート家電やスマートホーム設備導入を前提として住まいの意匠に収まるような設計考慮はより強く求められるものとなるでしょう。例えばロボット掃除機を住まいに収める設計、通称「ルンバ基地」は、RoomClipでも観察されている生活者のトレンドが住まいの作り手側に取り込まれた好事例です。

家電メーカーや住宅設備メーカー、住宅事業者など業界を問わず連携をはかるリビングテック協会としては、それらを理解し推し進める立場として、あるべき設計の追求・それらを反映した住宅の社会実装に努めることが今後の使命となっていくでしょう。

Room No.4784388 : 75
ロボット掃除機ルンバの基地を階段の最下段に設けています。 ちゃんとコンセントも設置してもらったので、ルンバは毎朝稼働して階段の下へ帰っていきます。

ルンバの直径は36センチでリビングの隅や廊下が基地だとかなり大きく感じるため、このアイデアは我ながらナイスでした💡
Room No.1086794 : pinkpho050
作ってよかった❗
・ルンバ基地
・リモコンニッチ
・手前右下に写ってるのはカウンターキッチン前にハウスメーカーの下駄箱を収納用つけてもらった。
 A4ファイルも入るからとても便利です🎵

このレポートの調査メンバー

  • 研究員
    竹内 優