2021.08.19

五感を満たす、「心地よい暮らし」へ。ポスト「映え」世界の価値とは

SNSが台頭した2010年代以降、それまでほとんど不可視だった「住まいと暮らし」の領域が可視化され、多くの人が他者の視線を強く意識するようになりました。結果として誕生した「映え」は急速に広がり、2017年になると流行語大賞にも選ばれ、社会現象として発展していったことは周知のことです。今や常識とも思われる「映え」ですが、最近はその在り方に少し変化が起きていると言えそうです。

上の写真は、同じユーザーによる2015年(左)と2021年(右)のキッチンの投稿です。大きくインテリアスタイルが変化していることがわかります。

1:「オシャレ」の失速

SNS、とりわけその中心的な存在であるInstagramにおいて、投稿の価値を決定づけた「映え」。2017年までをその黄金期と見た時、住まいと暮らし領域に特化したプラットフォームであるRoomClipでは、どの様な動きがあったのでしょうか。

投稿者の居住空間が主体であるRoomClipでは、「映え」トレンドは「〇〇インテリア」や「〇〇スタイル」といった、特徴的なインテリアスタイルの流行という形で発展しました。
カフェブーム第1世代の層が中心となりお店を再現した「カフェ風インテリア」、無骨で粗野な「男前インテリア」、海外ビーチの開放感を感じさせる「西海岸インテリア」など、数多くのインテリアスタイルがRoomClipで人気を集めました。それぞれのスタイルには、欠かせないカラーパレットに、キーとなる素材やアイテムなどいくつかの「必須構成要素」があり、DIYでそれを実現できるユーザーが登場すると共有が加速し、大きなトレンドとなっていきました。

Room No.440666 : makomi
2つ目のケースが完成しました。
以前のと並べてみました。

歪みやズレ、ミスが沢山あります。が、安く手軽に作れたので良しとします(´`:)
100均の桐板はやっぱり便利ですね!
Room No.1050377: Mio
「西海岸風バー」をイメージして作ったカウンターキッチン♪
カウンターチェアは既製品のいいものが見つからなかったのでSPF材を使ってDIYしました!
カウンター下の壁紙は元々左側の壁と同じホワイトウッド風のものだったのですが、おもしろくなかったので入居2週間ほどで貼る壁紙にチェンジ(笑)

上の写真は2015年と2017年に投稿された、カフェ風インテリアと西海岸インテリアの一例です。左は100円ショップのアイテムを使ったショーケースのDIY、右は板壁風壁紙を取り入れたプチリメイクと、それぞれのスタイルを決定づける必須アイテムが主題になっています。この様なDIY投稿の共有が、トレンドを加速させていきました。

それらのスタイルをつくり・発信することでユーザーが得られる代表的な価値が「オシャレ」という他者からの評価です。この頃のユーザー投稿に付与された「〇〇インテリア」または「 〇〇スタイル」のキーワードを含むタグの利用率を年次で比較してみたところ、2012年から5年間で31.4倍に増加、「オシャレ」タグも2014年から5年で12.5倍増加と、同時期に急成長していることがわかります。多くのユーザーにとって承認欲求は発信する原動力のすべてではないものの、トレンドスタイルを実現し共有すると評価される、ということが急発展の一要因であったことは確かでしょう。

しかし2010年代も終盤になると、見た目に関連する話題の勢いは鈍化していきます。「〇〇インテリア」「〇〇スタイル」は2017年を境に横ばいに、「オシャレ」は2019年をピークにわずか2年で40.7%減少。2020年代は、「映え」や「スタイル」といった「どう見せたいか」という見た目重視の世界から、フォーカスがシフトしているといえます。

では、一体どういうものへとシフトしているのでしょうか。RoomClipは、「心地よさの追求」がキーテーマになっていると考えます。その背景には、「感覚」に関する2010年代後半からの大きな動きがあります。生活者の行動に基づく、SNSにおける「空気」「香り」「音」の3テーマの動向を紹介していきます。

2:快適性の向上を求めて 〜空気と暮らし〜

ポスト映え時代の価値である「心地よさ」をつくる上で欠かせないのが「空気」です。2018年から3年間、RoomClipでは空調家電を話題にする投稿が伸びており、室内温度の調整性能に関する興味も深まっています。細かく見ていくと、2016年から5年間で「サーキュレーター」のタグ利用率は7.9倍、 「空気清浄機」と「加湿器」はそれぞれ3.6倍と3倍、「エアコン」は2.7倍と、いずれも上昇傾向です。さらに、検索率に目を向けてみると「断熱」というワードが2016年に比べて5.5倍伸びていることがわかりました。この1年に関してはコロナによる在宅時間の増加も後押しし、室内空間の快適性を強く求める意識は、飛躍的に高まっているといえるでしょう。

Room No.5156819 : Otsuuu_house
温度と湿度をコントロールして快適に心地良く暮らす為に心掛けていること🤔
我が家はほぼ毎日エアコンつけっぱなし、毎日15〜6時間はサーキュレーターも回りっぱなしです😚
Room No.739349 : tttbbb
「この1年で変わったこと」
扇風機やサーキュレーターを季節に関係なく使うようになりました😊
Room No.823948 : yumi
エコ断熱 エコ内窓&建具の再利用
…でエコな暮らし かな~

築30年超の我が家、
窓&サッシは、断熱対策されていません。午後の強い西日で窓ガラスが熱々です💦
そんな状態のままでエアコンをかけていたら非効率なので…

内側に内窓を作り、外側には日よけシェードをつけています。
内窓は、中空ポリカーボネートと、再利用の障子枠で作りました。

3:「臭い」対策の定着と「香り」への注目 〜匂いと暮らし〜

「空気」と深い関係にある「匂い」も、興味深いデータ推移を見せています。「消臭」または「脱臭」というキーワードを含むタグの利用率が2016年から2019年までの3年で2.1倍に伸長、2019年以降は横ばいとなっています。一方、「ルームフレグランス」のタグ利用率を見てみると2016年から2021年の5年間で2.9倍、鈍化は見られず、今も伸び続けていることがわかります。不快な「臭い」への対策はすでに定着し、部屋の心地良さをさらにアップデートするべく「香り」の試行錯誤を始めている生活者の動きが見て取れます。

Room No.388481 : okayan
私はコーヒーカスを消臭剤にしてます☕冷蔵庫に入れたり下駄箱に入れたりリビングに置いたり灰皿に入れたり使い道は色々です😉✨
これほんと匂い取れるんです😁👍
作り出したら止まらない🤣(笑)
おすすめの消臭剤です✨✨
Room No.1724997 : pomqujack
ふわりと甘い、ストロベリーとブラックベリー。
深みのある柔らかさ、ローズとスミレ。

エレガントで落ち着く、、、
大好きな香りに包まれ、夢の世界へ、、、💤

以前は大切に保管していましたが、現在は使ってこそ‼️と思い、日常使いに😊
毎日の、小さな幸せ積み重ね。

4:躊躇なく音を出せる環境を求めて 〜音と暮らし〜

「音」に関しては、住まいの中でどのような変化が起きているのでしょうか。RoomClipに集まる投稿を調査してみると、興味深い動きを見せているのが「防音」です。特に、検索率の動きは顕著で、2018年比で2.4倍に伸長、今も上昇傾向にあることがわかります。また、投稿に関する行動を見てみると、「防音」というタグに併用して付与されるもののうち、「ラグ」というタグが80%を占めていることがわかりました。宅トレやゲーム、子どもやペットの活動的な動きなど、生活音に対する身近な防音対策としてラグが使用されていることが分かります。

Room No.1153944 : Jina
ラグを新調しようと思ったのは、床の居心地アップと防音対策。
騒がしいタイプの子供たちではないんですが、大きくなるにつれ足音も気になりだし、お友達がくると走り回ることもあるし…

どんな色にも合い、オールシーズン使え、干すのに手間取らないサイズ、手頃な価格、程よい厚みのあるもの…ということでスモーキーグレーのベルギーラグに決めました。
Room No.2006644 : kajyu
次男の部屋★
黒板壁→防音壁に。
お隣さんに ご迷惑かけないよう
防音パネル貼りました!

長男の部屋も足音うるさいので
防音マットひきました!
下の階*お隣さんと仲良く苦情とかないですが
私が安心して暮らせるように(*^^*)

今回の「空気」「匂い」「音」に関する調査結果は、住まいと暮らし領域において、生活者のこだわりが視覚以外の対象にシフトしていることを示しています。目に見えないあらゆる感覚へのこだわりと、それらの体験を向上させることが「心地良さ」の追求であり、「心地よい暮らし」という望ましいライフスタイルへと繋がっているのです。

「心地よい暮らし」の実現は、生活の中の「マイナスをゼロ」にする動きから始まります。今回取り上げた3テーマの動向は「暑い・寒い」「臭い」「うるさい」など、暮らしの中で五感にかかるストレスを解消し、ニュートラルな状態を確保しようと試行錯誤する様子だと言えるでしょう。ゼロの状態が整うと、今度は「プラス」への意識が生まれてきます。「匂い」に関する調査で見えた「臭い対策の定着と香りへの注目」は、まさに、そんな「ゼロからプラス」に向かう動きの現れかもしれません。ポスト「映え」時代の今、人々がSNSに求めているのは、あらゆる感覚を満たし、自分自身が心から心地良いと思える暮らしを手に入れるための、アイデアやノウハウであると考えられます。

2020年代に入り、住まいづくりの分野ではグリーン住宅ポイント制度やテレワーク向けリフォームの補助金制度など、サステナビリティの推進が進んでいます。住宅設備アップデートへの関心は、これらの制度ともマッチし、快適性の改善に取り組む生活者はよりボリュームアップしていくことが予想されます。

Room No.1757818 : nyanco
ꕤ心地よい暮らしのためにꕤ
テレワークが多くなってきて
休憩中やふとした瞬間に観葉植物とお花で癒されてます𓇥 ֒
ハンギングで高い位置にあると、視界にも入りやすい🥰

部屋の色味はオークの明るい木目と白で。
お花や植物がナチュラルに引き立ちます𓂃 𓈒𓏸𑁍
シックで落ち着く色合いも憧れるけど
お部屋も気分も明るくなるように、この色味で統一してます🤗
Room No.2778548 : Yuzu-hi
心地よい暮らし『寝室』‧˚₊*̥
心掛けていることは

𓇬肌触りのよい寝具にする

𓇬部屋のトーン合わせたカーテン・照明・家具を取り入れる
視覚から癒しを得れるように♡︎

𓇬モノを少なくシンプルにして掃除しやすくすることで
いつも清潔で快適な空間を心掛ける‧˚₊*̥

このレポートの調査メンバー

  • 研究員
    水上 淳史
  • 研究員
    清水 麻未