2024.07.09

ヌックが実現する「家族時間」と「自分時間」の両立。見えてきた新しい共有スペースの在り方とは

家づくりにおいて「こぢんまりした居心地の良い空間」を指す「ヌック」が近年注目を集めています。2022年には毎年住まいと暮らしのトレンドを発表するRoomClip Awardでもランクインしました。 その背景にはコロナ禍で変容した住まいの在り方と、それに伴い生じた生活者のニーズが大きく影響しています。
今回のレポートではRoomClipの投稿実例やデータを交えながら、ヌックの人気の背景やそれに伴い見えてきた、新しい「住まいの共有スペース」について解説します。

1:高まるヌックの人気とその背景

ヌックの人気が高まっている

以下のデータは、Googleトレンドによる「ヌック」というキーワードが検索された推移のグラフです。
全体として右肩上がりのアップトレンドであることが分かります。

RoomClipのデータを参照しても、投稿と検索、どちらの水準においてもこの5年で20倍以上となっており、その関心の高さが伺えます。

ヌックとはどんなものなのか

その由来は「アングル・ヌック」からきています。ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典では下記のように説明されています。

RoomClipでもさまざまな形や目的を持ったヌックが投稿されています。
読書を目的としたリーディングヌックはRoomClipで人気の高い投稿です。

Room No.783759 : TomokiYamaguchi
リーディングヌックで窓辺でコーヒーを飲みながら読書でも
Room No.255886 : Rikokkumama
たくさんの本たちと観葉植物、そしてヌック。
Room No.7042 : cona
廊下にあるライブラリースペース📚 ガラスにフィルムを貼ってすりガラスにしました。

食事を目的としたブレックファストヌックも人気です。

Room No.4779982 : archway
こちらはダイニングテーブルの機能も兼ね備えた、ヌックです。正式にはBreakfast Nookと言って、海外に良く見かけるスペースです。朝食時間は何かとバタつく為、ささっと食べれるスペースが欲しかったのでリノベ会社さんに設計していただきました。他にも作業や在宅勤務で使用できるので便利です(^^)
Room No.1301265 : 1TA
朝のダイニング。この場所からの公園ビューが好きです。なかなか静かな時間がないのでこの時間大事!

他にもゲームをするためのヌックやキッズスペースとして利用するヌックなど、さまざまな目的を持ったヌックがあります。

Room No.5767429 : sugg
二畳に満たないヌック的なゲーム部屋。当初はここでテレワークもしようかと思ったけど、仕事モードになれないダメな空間。
Room No.1182072 : MIMI
ヌック下の子供のスペース。散らかるおもちゃはこの中で!秘密の隠れ家で子供たちのお気に入りスペース

ファミリー層からの支持が高く、リビングや階段下などのスペースに設けられることが多い傾向にあります。

Room No.813714 : k-k-mama
花屋さんでドウダンツツジをみつけたので買ってみました!樹形が悪いから‥とのことで、とーっても安かった!わーい🙌 リビングにグリーンがあると癒されますね❤️
Room No.4643260 : miiiisa
憧れのヌックを階段下に作りました。
Room No.1182072 : MIMI
リビング階段の途中に設けた書斎ヌック!机をエル字にした出てもらったので、作業スペースが多く仕事もはかどります

この「ゆるやかにゾーニングされたこじんまりとした空間」という特徴が、コロナ禍で変容した住まいの在り方のなかで注目されるようになりました。

2:コロナ禍で変容した住まいの在り方と、生じたニーズ

コロナ禍に家の中で増えた3つのこと

コロナ禍においての住まいの在り方の変化について、住文化研究所は家の中における「時間」「やること」「同時に過ごす人の人数」が増えたことが大きく関係していると分析しています。

コロナウイルスの感染拡大の影響によって緊急事態宣言が出され、家の中で過ごす時間が増えました。この点は多くの方が強く実感した部分かと思います。

上図は総務省が2021年に行った「新たな日常」における生活時間等の変化や通信環境との関係についてのアンケート結果です。
この資料によると、緊急事態宣言中、平日の在宅時間が20時間以上になった人の割合は48.1%で緊急事態宣言前の25.2%から大幅に増加しています。

また、仕事やレジャー、外食など、それまでは家の外で行われていたことまでも家の中で行わなくてはいけないという状況になり、RoomClipにもそれらを克服するためのさまざまな工夫が投稿されました。

Room No.39 : Katsura
そろそろわたしも在宅ワークの練習。今日はダイニングをワークスペースにしてます。ちゃんとワークスペースあるんですが、いまぐちゃぐちゃです😂
Room No.534234 : ranko
子供たちの強い要望により、第二回のおうち縁日開催しました👦🏻👧🏻🏮夏の最後の思い出に♡
Room No.871079 : mri96
また自粛生活が始まります💦毎日の感染者数も当分は衝撃的な人数が続きそうですが、、ひとりひとり自覚を持って、この深刻な状況を乗り越えていくしかないですね😢そんな思いの中、お気に入りの器やフラワーベース、キャンドル並べての束の間のおやつtimeは、私にとって癒しの時間(*´―`*)✨

コロナ禍以前は、日中は家族それぞれが外で活動をし、家の中で一堂に会する時間は限られたものでした。それが一変し、家の中で「同時に過ごす人数」が増えました。
この点に関しては、「時間」や「やること」に比べると見落とされがちな点ですが、住まいの在り方を変化させたひとつの大きな要素だと捉えています。

そして、今回のヌックの人気の背景を探るにあたっては、この「同時に過ごす人数」がキーとなってきます。

ここでまず、コロナ禍を経て家族との時間がどう変化し、それに対して生活者がどう感じたかの資料を見てみます。

上図は内閣府が令和5年4月に発表した「第6回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」の「家族と過ごす時間の変化」についてのデータです。
2020年の5-6月においては、70.3%の人が「感染拡大前と比較して家族と過ごす時間が増えた」と回答しています。
また「現在の家族と過ごす時間を保ちたい」という声は93%に上り、生活者がコロナ禍によって増えた「家族と過ごす時間」を歓迎し、それを保ちたいという気持ちが高まっていることがわかります。

コロナ禍に生まれたニーズ

コロナ禍を経て「家族と過ごす時間があったらいいな」というニーズが生まれました。

それを裏付けるようにRoomClipの投稿においても「家族の時間」に関連する投稿は427.76倍にも上昇し、家族との時間に対する前向きなコメントが多く投稿されています。

一方で、「1人で過ごす時間があったらいいな」というニーズも増加しています。RoomClipの投稿においても「自分時間」や「パーソナル」といった1人で過ごす時間に関係する投稿が増えています。

自分だけの時間を楽しむ「自分時間」の投稿です。

Room No.553095 : hamu
色々な使い方が出来るコの字型デスク~ここで~くつろぎながらYOUTUBE見てます
Room No.5518784 : obuta47300
旦那さんのパーソナルスペース2量程ですが、自由に使ってます(フィギュアやらプラモを厳選して陳列してますね😁)テレワーク、ゲーム、プラモ作りなどここで何でもこなしてます(居心地いいみたい⁉️)机は、床に座わって作業するように低く作ってもらいました。狭くても、確保したパーソナルスペース本当、作って良かったです😆👍
Room No.408894 : chiii13
1人時間を堪能しております😌

自分だけの空間を確保するための「パーソナル〇〇」の投稿です。

Room No.5351709 : Norika
我が家の癒しスペース去年Roomclipではたくさんの方に褒められたパーソナルゾーンです今年はアートポスターいりバージョンになりますー本を読む私と花が好きな私をイメージしたポスターです😆もう完全にマイゾーンです💚
Room No.1449395 : mako2yaa
ロッキングチェアー✨買いましたヾ(≧︎∪︎≦︎*)ノ〃ほぼ布団のようなクッション付きですパーソナルでいいから、どうしても心地のよいソファーが欲しかったのです我が家のソファーはこたつ時期を重視しているのでロータイプです。その安いローソファー自体も私が選んで買ったのですが、あんまり寛げなくて😭😭座るのにどっこいしょっと、立ち上がるのにもエイっと体を持ち上げますし、何よりも体に悪い姿勢になります😅家にいても実はあまり座らず。ベットではない場所で寛ぎたいと長いこと考えていてついにゲット致しました
Room No.6171740 : coco0.84.
リビングには三人掛けソファの他にパーソナルソファを置いています。こちらのソファは座りやすく一人掛けと言うのが良いのです😊本を読みながらお茶をしたり、テレビを見たり。とても落ちつけます。当初4人家族で私がソファに座れなく私用に買ったのに、今ではこちらのソファが人気です(笑)一人だけで座れると言うのが良いのかしら?(笑)

また、マーケティング・リサーチ会社のクロス・マーケティングが2023年4月に実施した「新型コロナウイルス生活影響度調査」によると、余暇の過ごし方としては「1人・自分だけの時間」の満足度が高く、年々増加傾向にあることがわかります。

下図はマーケティング・リサーチ会社のクロス・マーケティングが2022年11月に実施した「おひとりさま消費に関する調査」です。その内の「1日の中でひとりで自由に使える時間」に関する調査結果によると、87%の人が「ひとりで自由に使える時間」を増やしたいと回答しており、「1人で過ごすこと」「自分だけの何か」のニーズの高まりと、関心の高さが伺えます。

このように、コロナ禍によって住まいの在り方が変化するなか、「家族と過ごす時間があったらいいな」と「1人で過ごす時間があったらいいな」という相反する2つのニーズが生まれました。その結果、「それらのどちらも両立できる空間が欲しい」という、これまで多くの人は意識していなかったであろう新たなニーズが顕在化してきました。

3:ゆるやかに閉ざされたリビング、ゆるやかに開かれた個室

これまでのリビングは家族と共に過ごすために、仕切りのない「開かれた空間」であることが大前提で、そこに「1人の時間」が入り込む余地はありませんでした。

しかし、「家族と過ごす時間と1人で過ごす時間を両立できる空間が欲しい」というニーズの顕在化によって、リビングの「仕切りのない開かれた空間」という在り方が見直されはじめました。

その結果、人気を集めることになったのが「ヌック」です。ヌックはリビングという開かれた空間をゆるやかに閉ざす役目を果たし、そこに「1人の時間」が入り込む余地をつくりだしました。

また、この現象は個人の部屋や寝室といった個室、つまり1人で過ごすための「閉ざされた空間」でも同様に起こっています。
近年、家の中で部屋と部屋の間に設置する窓である「室内窓」がヌックと同様に注目を集めています。
室内窓は個室という「閉ざされた空間」をゆるやかに開く役目を果たし、そこに家族の気配を取り入れることを可能にしました。

4:ゆるやかな境界線が問う住まいの中の「共有」

RoomClipに投稿されたヌックを見ると、さまざまな手法を用いて、壁やドアで区切られるよりもゆるやかな境界線を実現している様子が伺えます。具体的に見ていきましょう。
メインの壁と区別したアクセントクロスで緩やかな境界線を実現しています。

Room No.5279117 : iwashi1121
我が家はリビング階段を採用しています。階段下を画像のようにくり抜いたスペースにしています。特別な空間!ということで、アクセントクロスを採用。

共有スペースの中でも特別なスペースであることを主張するために、開口のデザインも工夫されています。

Room No.4584808 : pinocho
漫画読んだり裁縫したり、動画見たり。寝かしつけ後のおこもり部屋です。
Room No.5879942 : mamahome
ヌックスペースここのテーマは北欧☆

また、室内窓を用いて、個室の一部をゆるやかに開き、プライベートな空間を保ちつつも家族の気配を感じる空間の投稿も多数あります。

Room No.758387 : automne
室内窓がついた書斎です!狭い空間だけど窓のおかげで光がはいってきたりリビングとゆるく繋がってるかんじがお気に入りです❤️
Room No.669255 : stcm.home
リビング横の寝室全面ガラス張りの室内窓で仕切られています。
Room No.215647 : kei
暗く狭めになりがちなベッドルーム🛏室内窓をつけて光が入るようにしました!視線に抜け感が出るので実際の部屋の広さよりも広く感じます

戦後、住まいの中での「家族団らん」の場として普及したリビングは、今でも家族が共に過ごす場としてとても重要視される空間です。一方で、生活者が住まいという限られた空間の中で、誰と何をどのように共有したいのかは時代とともに変化するもので、その変化は2010年代以降のSNSの普及と共にそのスピードを早めています。

今回テーマとして取り上げた「ヌック」はその変化の中で発生した新しい「共有」の在り方を示すひとつのピースに過ぎません。

住文化研究所では時代の流れをいち早くキャッチし、生活者の「共有」に対する意識の変化に今後も注目していきたいと思います。

RoomClipの「ヌック」の投稿はこちら

このレポートの調査メンバー

  • 研究員
    荒津 桂