2021.10.26

キッチン家電の多様化が加速中。新定番と、変化に迫られるその周辺

2010年代にSNSが広く普及する中で、暮らしの分野でもたくさんのノウハウ共有が進みました。その一つに、住まいでの食にまつわる情報のやり取りがあります。共働き世帯のための時短料理テクニックや、一人暮らしのための自炊術、生活の質を高めるための豊かな食卓作りなど、様々な価値観やライフスタイルに合わせた多様な食のトピックスが注目されるようになりました。さらに、2020年に発生したコロナ禍は、食生活においても大きな変化をもたらし、新たな常識を生むとともに、課題も浮き彫りにしています。

今回は「キッチン家電」をテーマに、時代の変化が住まいにおける食周りの環境にどのような影響をもたらしているかをレポートします。

上の画像は親子の家族世帯でキッチン家電が置かれることが多いキッチンボード、いわゆる背面収納の投稿です。左は2021年のもの、右はその5年前の2016年に撮影されたものです。今回の調査のきっかけには、これらの写真のように棚の横幅をとても広く取る事例が目立つようになってきたことがあります。

1:食のライフスタイル多様化に伴って増えた「家電」

RoomClipのデータを見ると、キッチンにある家電は年々増加していることがわかります。RoomClipにおいてキッチンの総投稿数における「家電のジャンル名がタグ付けされた写真の投稿率」は5年間で約63%増加しました。また、深層学習による物体検知で家電が写っていると判定されたキッチンの写真の投稿水準も相関して上昇しています。2010年代後半から、キッチンにおいて家電が写りやすくなったことは確かと言えるでしょう。

Room No.5088777 : kossy
今後、ホットプレートやコーヒーメーカーなどのキッチン家電が増えた時のために、余裕を持った配置にしています。
Room No.68126 : sachi
新たにヨーグルトメーカーも購入しキッチン家電が増えたので、レンジ上ラックを伸ばして置き場所を作りました。

投稿されるキッチン家電も「多様化」

キッチンにある家電の数が増えた中で、どんなアイテムが増加したのでしょうか?キッチン家電といえば新生活で選ばれる家電としても定番で必需品と言われる「冷蔵庫」「電子レンジ・オーブン」「炊飯器」がありますが、これらはもともと世帯普及率が100%に近いもので、それらが改めて伸長したと考えるのは無理があります。それらと別種の家電が近年多く投稿されるようになったのだと想定されます。

そこで、キッチンにおいて投稿された写真にタグ付けされた全ての家電のジャンルを2016年と2021年(9月まで)で比較しました。具体的に行ったことしては、以下です。
(1)一般家電量販店3社におけるキッチン家電の全カテゴリー名をリスト化
(2)2016年から2021年の各年でRoomClipのキッチンの場所タグ投稿における(1)のリストに含まれる名称のタグ、全投稿を集計

結果、使用されていた家電ジャンル名のタグは2016年は24種、2021年は36種で、1.5倍に増加していました。合わせて各年のキッチン家電の投稿全体における家電1種ごとの平均投稿率を算出し、その平均投稿率を上回る家電が何種あったかを集計しました。こちらの結果は2016年は5種、2021年は10種と2倍に増加。つまり多くの家庭で、定番化しているキッチン家電の種類が増えていると示唆されます。

新しくタグ投稿率が平均値を上回った家電を見ると、現代の新三種の神器としても名前があがる「食洗機」や、時短調理に欠かせない「電気ケトル」「電気圧力鍋」などが特徴的です。多様化するライフスタイルのニーズにマッチしたキッチン家電の投稿頻度が、この5年間で増加し、一部は定着が始まっていると考えられるでしょう。

Room No.5562513 : chichichi
築20年目にキッチンリフォームで手に入れた念願のミーレ食洗機。
洗い物ストレスからの解放(๑˃̵ᴗ˂̵)
そして、超便利で優れもののバーミキュラライスポット。
Room No.472694 : flannel.
お家時間が増えて思ったこと。
子供達と向き合う…自分時間を楽しむ…家事を楽しむ…でも、手抜きもしたい😅
電気圧力鍋✨魔法のように美味しすぎる角煮ができて子供達にも大好評🎶
Room No.1282669 : sally
使用して1年がきた山善さんの電気ケトル
毎日2回以上使う我が家の必需品!! NO.1 KADEN★

変化に伴い「積極的にタグ付けされる」ブランドが登場

少し視点を変え、キッチンで投稿される家電ブランドについても参照しました。2016年以降から、ある1つのブランドが日本のキッチンに強い影響を与えていることがわかります。スタイルや味にこだわったトースターの初代モデル発売で2015年に業界に参入し、その後も多種のキッチン家電をリリースする「バルミューダ」です。

2010年代後半にキッチン家電の投稿が増加する中、投稿率が一旦のピークを迎える2018年にバルミューダはもっともRoomClipで投稿されたキッチン家電ブランドとなり、それ以降も現在まで首位を維持しています。これはあくまで「タグ付けされたブランドの1位」であり市場シェアとは異なりますが、多様化するライフスタイルに伴ってキッチン家電も多様化する中で五感や体験の価値に寄り添うプロダクトをリリースしたブランドが業界のポジションを得ることは、その後の各ブランドの動きを見ても示唆的と言えます。

Room No.915972 : ryo
我が家のオーブンレンジは
トースターと同じバルミューダです。

無駄のないデザインで
シンプルな操作だけど
レンジからオーブン料理まで
問題なく使えます👍

家電は黒系で揃えました。
Room No.381353 : maki
キッチンの家電たちは、全部私のお気に入りです(*^^*)
バルミューダ の電子レンジは、ギターの音が新鮮で、家事が楽しくなります。
他の電子レンジよりも、機能面では少ないかもしれませんが、パン作りも、発酵から焼き上げまでちゃんと出来るし、飲み物の温めも、コーヒーと牛乳・熱燗🍶が選べるので、機能の少なさは、私には全く問題ありません。

2:コロナ禍を経てさらに普及が加速したキッチン家電は?

キッチン家電のジャンルに話を戻します。キッチン家電の多様化が進む中、コロナ禍はそれにどんな影響を与えたのかについて投稿の推移から確認しました。2016年より数値が連続的に上昇する家電がいくつかある中で、さらに2019・2020年間で上昇率が激しかったTOP3が下記グラフに挙げる「電気圧力鍋」「炭酸水メーカー」「ホットプレート」です。

いずれもコロナ禍以前から一定の関心が集まる中、コロナ禍の巣ごもり消費需要によりブレイクしたジャンルと言えます。3つの家電がそれぞれどのように支持されていて、コロナ禍によってより注目されるに至った背景について紹介します。

電気圧力鍋

電気圧力鍋は対象期間でもっとも投稿率が上昇したキッチン家電ですが、コロナ禍以前より家事負担を軽減する新ジャンルの家電として関心を集めていました。ステイホームで家族や住まいの世話をする時間や手間が増えた生活者が増加した中、「ほったらかし」で料理を任せられるメリットが改めて浸透。出来上がった料理の美味しさもクチコミで評判となり、時短かつ味にもこだわれる、生活の質を上げるアイテムとして導入が続いています。

炭酸水メーカー

炭酸水のブームをメインで牽引してきたのはペットボトルの商品ですが、家庭内にドリンクコーナーを設置するトレンドが一部ユーザー間で広がる中で炭酸水メーカーは普及がじわじわと続いていました。そしてコロナ禍のステイホームにより、ボトルを購入する手間やストック場所の問題解消、ゴミを減らせることなどをメリットに炭酸水メーカーへの乗り換えが促進。まだ絶対数は少ないものの、ドリンク消費量が多くなりがちな在宅ワーク層を中心に定着が見られます。
(※炭酸水メーカーは電源不要な製品も数多く存在しますが、今回のレポートでは家電の1ジャンルとして集計しています。)

ホットプレート

3種のうちもっとも古くより一般的なキッチン家電ですが、2010年代後半より新興ブランドを中心に、暮らしに馴染むスタイルや使い方にこだわった商品が登場。近年は再度投稿が賑わっていました。そんな中ステイホームで調理過程から家族で囲んで食事を体験として楽しめるアイテムとして改めて評価が高まりました。電源さえあればどこでも食事を楽しめるため、ベランダやテラスなど、住まいの様々な場所で食事を楽しむ投稿例が現在も増加しています。

Room No.3780987 : nana.himama
ずっと欲しかった電気圧力鍋を最近お迎えしました😊❤️
時短大好き、せっかちなので、めちゃくちゃありがたい家電😂‼️‼️神😂✨✨
ついでに新しい電子ケトルとネスプレッソもお出迎え😊💕自粛生活で我慢してるし、、ってのを何度も言い訳に使う🤣🤣🤣
Room No.5302806 : lunaluna
〜暮らしを変えたキッチン家電〜
使わないからと3年ほど前に貰ったソーダストリーム、ほぼ毎晩ハイボールを飲む我が家では必要不可欠な物となりました!
このコロナ禍で、飲み会が圧倒的に減ったため、尚更です。
ソーダストリームの最大のメリットはゴミが出ないことですかね?
以前は空き缶のゴミがすごかった^^; 
Room No.361599 : 411.kaoriiii
三連休はおうちBBQできました♩
夕方からはじめたので照明付けてスタンバイ。

3:置き場所がない。コンセントが足りない。使いたい場所にない。家電の多様化によって求められる住まいの変化

以上のように、ライフスタイル変化に伴い暮らしの中でより多種多様のキッチン家電が利用されるようになりました。これまで住まいに導入されたキッチン家電が引き続き家庭で利用されていくことはもちろん、今後もニーズに合わせて別のアイテムが次々と追加されていくことは想像に難くありません。
しかし、これまで大きく“スタメン”の変わることのなかったキッチン家電の多様化は、使用する住まいの中でいくつかの痛みも抱えています。課題はここに上げる例に収まりませんが、最後にユーザー投稿を通して具体的な悩みとして見ることのできるトピックをいくつか紹介します。

設置スペースの不足

これまでキッチン家電はいわゆるカップボードやそれに類する役割の棚に置かれて来ましたが、従来定番とされてきた家電より種類も数も多くなり、置き場所が不足しているケースが見られます。特に賃貸では顕著です。近年の新築・リノベのキッチンではあらかじめ多数の家電を置くことを考慮したレイアウトも事例として見られるケースが増えて来ました。

コンセントの不足:数

家電の増加に伴って必須となるのがコンセントです。「キッチン」「コンセント」に関するコメントでのやり取りや検索はいずれも上記のグラフの通り上昇トレンドをたどっており、悩みを打ち明けたり参考例を探す動きが見られます。置き場所の問題と同様に、従来想定されているたくさんの家電が置かれた結果、コンセントも不本意な形での増設を余儀なくされている状況です。口数を増やすアイテムやDIYのノウハウも多く共有されています。また、たくさんの家電を同時使用することでブレーカーが落ちてしまうため、電源の分岐なども話題となりがちです。

コンセントの不足:場所

コンセントの問題はキッチンのみに限りません。ホットプレートのケースを代表に、食事や調理の場所がダイニング・リビング・ベランダなど、家のそこかしこに拡大していることも考慮が必要です。思い通りの場所で使いたい道具が使用できるようになることは、今後さらに多様化するであろう個々のライフスタイル変化をカバーする住まいづくりの前提となり得ます。

Room No.4545436 : Miki
電気圧力鍋が仲間入りしたので、キッチンの棚の上はもぉいっぱいです💧
もーちょっと余裕な感じで置けたらいいけど…。
これ以上、物は増やせません😥
Room No.5484162 : Juno06
我が家のキッチン家電たち。どれもレギュラーメンバーで家族の腹を支えてくれています。
ヘルシオオーブンを端にしたかったのですが、電源の位置が微妙に合わなくて諦めました。

調理家電は増えることを予想して壁にコンセント3ヶ所、電源6つ取れます🔌これだけあると安心です。時々ブレーカー落ちますが💦💦
Room No.885634 : soratoteto
マグニフィカの電源確保、私も悩みましたがさすがに2口コンセントをコーヒーメーカー独占にするほどキッチン周りの電源は充実しておらず、2口コンセントのひとつをマグニフィカに、その他をレンジやその他キッチン家電に割当、さらにはレンジと同時使用しないように気をつけて使ってます。

背景や理由がパーソナルなものであれ、コロナ禍のように社会的なものであれ、ライフスタイルが変化すると必要となるアイテムは変わっていきます。そして、使うアイテムが変わると必要な環境も変わります。新築やリノベーションによってアップデートする層もいるものの、多くは現在の一般的な住宅のキッチン間取りに住み続ける中で、不足や不満を感じる層はひときわ拡大していくでしょう。キッチン家電をはじめとして、今後の住まいづくりにおいて、ライフスタイルの変化に伴った所有アイテムの変化を見つめることは重要な着眼点となりえます。

このレポートの調査メンバー

  • 研究員
    竹内 優