上の写真はいずれも、DIYされた「充電ステーション」の実例です。近年、各家庭で充電ステーションが設けられているケースが急増しています。
1:住まいで“探され続ける”充電
固定電話の回線契約数を携帯電話が超えたのは2000年(出典:総務省 情報通信白書)のことですが、それに伴って住まいで「充電」を行うことは日常行動のひとつとなりました。しかし当時は、充電の目的は日中に外で利用することが目的で、携帯電話以外に充電を必要とする家電もごくわずかなものでした。
まずご覧いただきたいのが、上のグラフです。RoomClipで「充電」という単語を含むキーワードの検索数が、各年の全検索数に対してどの程度の割合があったかを示すものです。結果は、一時的なピークを見せることもなく上昇が続いており、2015年と2021年の比では8.1倍にまで増加しています。
住まいと暮らしに特化したSNSであるRoomClipにおいて、「充電」について検索する最も一般的な理由はノウハウや実例を見たいという願望によるものです。このグラフは「充電」に関する住まいの環境づくりに対して関心をもつユーザーが増加していることを示唆するものと言えるでしょう。
2000年代に一般化した住まいでの「充電」行動は、どのようなニーズ変化を見せたのでしょうか。詳しくレポートしていきます。
2:多様化が進む充電式アイテムとその背景
そもそも自身の身の回りを振り返るだけでも、スマートフォンの導入以降、非常に多彩な充電式の機器が増えた印象があります。その背景として、2つの要因が考えられます。
スマートフォン関連技術の進歩に伴うバッテリーの技術革新
採用されるバッテリーの技術が年々目覚ましい進化を遂げた結果、小さく、大容量で長寿命なバッテリーが手軽に使用できるようになり、安価なアイテムでも充電式を採用するケースが増えたこと。
スマートフォンの普及で充電規格として一般化した「USB」
USBはスマホを持っていればどこの家庭でもある充電規格となり、専用の充電器などが不要となることから、バッテリーを搭載した最近のアイテムの大半がUSBで充電可能な仕様となっていること。
では、実際にRoomClipで「充電」もしくは「USB」に関する投稿は増加しているのでしょうか?
「充電」「USB」を含むタグの発生数の推移を見ると結果は明らかです。サービス開始当初から年々新しいタグは増加傾向で、例えば2015年に生まれた「充電」「USB」を含む新種のタグは合計29種でしたが、2021年は144種。約5倍に増加し、今後も増加傾向が続くと考えられます。
2018年以降、一気に多様化を見せた充電式家電
新種のタグ発生について数値面の推移を紹介しましたが、具体的にはどんなアイテムが関係しているのでしょうか?
各年に発生したタグを元に、その年に関連した主な機器をピックアップすると、上図のようになります。
2015年以前は、その後の多様化のキーとなるスマートフォンがまず登場しています。2016年には充電式のスティック型掃除機が人気となったことから、専用スタンドのDIY等が話題になったことも記憶に新しいところです。2018年以降になると、USB充電を採用した多種多様な機器が、充電の話題とともにRoomClipで投稿されています。
2018年以降の各年に登場してきた充電式家電を振り返ると、3つの目的で多様化していると考えられ、それぞれ分類が可能です。
2018年〜エンタメやコミュニケーションをもたらすもの:AV・IT機器
スマホやタブレットなどのモバイル端末が外に限らず家のいたる所でコンテンツ視聴やコミュニケーションに活用されています。ほか、図表にあるゲーム機以外にも、Bluetoothスピーカーがキッチンで音楽をかけ家事のモチベーションアップに役立つなど、エンタメコンテンツを中心にAV・IT機器が日常の様々なシーンに活用されています。
2019年〜快適性の向上や健康を守るもの:生活家電
充電式のLEDランタンは電源がなく照明が利用しづらかった場所への導入のハードルを下げ、ベランダのリビング活用などにも役立っています。充電式扇風機やサーキュレーターは快適に過ごせる部屋の幅を広げました。コロナ禍以降は作業スペース周辺の環境改善や、衛生環境の構築に貢献しています。
2020年〜飲食の体験や効率を向上するもの:キッチン家電
「コーヒーのある暮らし」周辺で特に充実が進み、コーヒーメーカーをはじめ電動ミルなど、より多くの生活者にとって質の高いコーヒーを手軽に体験できる環境が整いました。充電式ブレンダーは、コードレスなことで作業環境の制約が下がるなどの価値をもたらし、家族が料理に参加しやすくするなどのシーンも見せています。
各機器の登場年代を改めて見てみると、「AV・IT機器」→「生活家電」→「キッチン家電」といった発生順序のまとまりがあることにも気がつきます。スマホ周辺の技術や体験に近いものから充電式のアイテムの普及がはじまり、その後生活者の身の回りの空間に関わるもの、身体に接触するものに関わるものといった具合に充電式のアイテムが登場し、受け入れられていったと想像されます。今後もそのトレンドを追いながらアイテムの多様化が進んでいくことが予想されます。
3:アイテムの多様化とともに、共用スペースや作業スペースで求められる「充電場所」
住まいで使われる充電式アイテムの多様化をご覧いただきましたが、検索だけでなく「充電」というキーワードを伴う投稿も増加しています。
上図はRoomClipで「充電」を含むタグが各年の全投稿数に対してどの程度投稿されたかの割合を示す投稿水準グラフです。
2015年から2018年までに5.6倍と急増し、その後3年間横ばいを見せましたが、2022年6月現在は2018年比で1.7倍に増加しています。
続いて、この増加がどのように住まいへ影響を与えているかを探るため、場所別に内訳を見てみます。
わかりやすく各場所ごとにグラフをまとめ直すと、推移は上図のようになります。投稿タグから区別が可能な代表的な場所として「リビング」「デスク周り」「キッチン」「寝室」を抽出しました。
結果はいずれも増加の様子を見せていますが、投稿水準および増加率には大きな違いがあります。2022年6月現在時点では投稿水準の上位順にリビング、デスク周り、キッチン、寝室。上昇率順ではリビング、キッチン、デスク周り、寝室。リビングはいずれも1位で、投稿水準は2015年と2022年6月現在比で23.9倍。
いずれも最下位となった寝室は、2015年当時は1位の投稿水準であったものの、2022年6月現在比は3.3倍と伸び率も最低で、直近1年で減少が見られた唯一の場所でもありました。
過去、携帯電話のような充電式アイテムは外で利用されることが主なため、一日の終わりに充電される場所が寝室だったと想像されます。しかし、充電式アイテムの多様化や住まいの中で利用されるシーンが増加した結果、近年ではリビングのような共用スペースや、デスク・キッチンのような作業スペースで充電することへの関心が高まっていると考えられます。
各部屋にDIYで構築される「充電ステーション」
充電関連の投稿と共に使用されるタグの代表例が「充電ステーション」「充電コーナー」といった充電環境に関するものです。
これらも他の充電関連ワードに漏れず増加傾向を見せており、「充電ステーション」「充電コーナー」を合計した2021年の投稿水準は2015年比で20.2倍となっています。そこには、充電器をただ設置するのでなく、部屋に特定のスペースを設ける形で充電環境を構築する生活者の姿があります。
・iPhone、iPad
・Type C
・Type B
・ちゃれんじタッチ用
・マッサージ器用
・ネッククーラー用
・ルンバ960
一目惚れしたクッキーの缶、
新居祝いにお友達からもらったダルトンのスケール、
息子のための日課のバナナ、
充電ステーション(Bluetoothで音楽とばすよ)、
ぜんぶお気に入りです。
また、投稿写真からも分かるように、それらは何らかのDIYを伴って構築されているケースが一般的です。全部をDIYで構築するケースもありますが、別用途の既製品と組み合わせて構築されるケースがほとんどです。写真をご覧の通りですが、ファイルボックス、キッチンワゴン、有孔ボードなどは充電ステーションの構築に使用されやすい代表的なアイテムのようです。
帰宅後に、左の紙袋に洗濯するマスクを入れてもらって、まとめて洗濯しようかと。
充電ステーションがDIYされる理由
このように「充電ステーション」がDIYで構築される背景には、以下の事情があると考えられます。
年々所有機器が変わるため、形が定まらない
機器の多様化が年々進み、また各家庭に導入されるアイテムも時期も異なるため、所有の類型が一般化しづらい。
住まいの中に決まった場所や設備がない
充電ステーションは洗濯機や冷蔵庫置き場のような、その行動を想定した特定のスペースはない。また、コンセントの高さなどが充電式家電の利用を考慮されたものでないケースが多い。
充電器の組み合わせ方や配線処理方法など、決まったノウハウがない
ケーブルボックスなど、充電ステーションの構築に活用できる既製品は多く存在するが、それに適合する電源タップや充電器の組合せは提示されていなかったり、周辺の配線などはユーザー任せとなる。
リビングでは既存のリモコンニッチを活用した例も多く見られます。腰の高さに置き場所とコンセントがあることや、元々固定電話等の通信機器の設置も想定されていることから、スマートフォンなど同用途の機器を集めやすかったことが理由として挙げられるでしょう。また、USB充電機器とともに、スマートスピーカーなどUSB給電で使用する機器の設置を伴う場合もあります。取り外して使用されるものと、据え置きで使用されるものが混在し、充電ステーションの構成はより複雑化する一方です。
前の家で充電場所がなくてとても困ったので、現宅では設計しました。 子供たちのスマホとタブレットだけでなく、卓上クリーナーやポータブルスピーカーも充電できるようにしました。
4:新しい電気の使い方から求められる、住まいの設え
住まいにおいて、これまで電気の使われ方は「電源につないだその場で消費する」ことが主であり、住まいはそれに沿った設計となっていました。しかし「電気をためて、必要な場所で使う」充電式家電の普及と多様化はこれまでの家電の一部を置き換えるなど、暮らしに新しい価値をもたらしています。その結果、現在の住まいはその生活の変化に追いつかず、生活者自身の試行錯誤によって充電環境の構築を強いられています。
前述の通り技術革新のスピードが早い分野であるため、今後もさらなる変化を見せることは避けられません。新しい生活行動として充電を捉え、収納雑貨など各アイテムの領域に止まらず、住まいの各業界分野がその変化に見合うサポートをすることは、多くの生活者の中で求められていることと想像できます。
生活者によって構築された「充電ステーション」の様子を改めて眺めると、今後住まいでの充電環境構築を提案する際に求められる条件はいくつか挙げられます。
変化の許容が可能な形での設備化
機器の増加や、充電規格のアップデートの可能性を見越し、ある程度のゆとりや作り替えの余地をもった設計であること。
複数箇所化と、場所にあった仕様
充電環境を住まいの一箇所にまとめることは機器の多様化に対して現実的ではないため、各シーンで利用される機器を想定しながら各部屋に構築されること。また、水回りなど、ユースケースによって仕様も考慮すること。
安全性の担保
使用する機器の組み合わせや、配線の処理によっては火災の原因となり、実際に事故になったケースも報道されている。適切な機器選びや使用法の啓蒙や、リスクのない環境構築を実現できる製品・設備提供がなされること。
電気・ガス・水道と、住まいのライフラインとして提供される公共サービスは、暮らしに欠かせない価値をもたらす反面、使い方によってはリスクも孕みます。このように生活者の新たなユースケースをお届けすることが、今後、各事業者様にとってサービス・プロダクトへのキャッチアップに活かされるインプットとなっていけばと考えています。